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クリニックの事業承継

クリニックの事業承継の形態

現在開設しているクリニックを廃業することなく存続させたい場合、個人診療所か医療法人かによって、次の承継の形態が考えられます。 

個人診療所

  1. 親族への承継
  2. 第三者への譲渡

医療法人

  1. 親族への承継
  2. 第三者への譲渡
  3. 他の医療法人との合併

個人診療所を親族に承継する場合の留意点

個人診療所の場合、他の財産と同様にすべての事業用財産が課税の対象となります。
生前贈与対策をしていなかったり、遺言がなければ、本来、後継者が相続すべき診療所の土地、建物等の事業用資産までもが後継者以外の他の相続人に分割され、事業を承継できないケースも考えられます。

開業医としての社会的使命を考え、診療所が永続的に発展できるよう生前にきちんとした事業承継対策を考えておくことが必要です。 


診療所の土地、建物の取り扱い親名義の土地、建物は、承継者である子に貸し付けるか、譲渡、贈与により子の名義に変えることもできます。
  • 譲渡
    親に譲渡所得課税が発生し、子は建物の減価償却費を必要経費にできます。
  • 賃貸
    親と生計が別であるときは、親(貸主)に賃貸料収入が発生し、子(借主)の賃貸料は必要経費となります。
  • 贈与
    子に贈与税がかかる場合があります。
医療機器等の取り扱い医療機器を引き続き子に使用させる場合には、土地・建物と同様に、譲渡・賃貸・贈与の3つの方法があります。賃貸の場合には、親と生計が一であるか否かによって、賃貸料の支払いがあっても、その取扱いが異なります。
たな卸資産や未収金親の開設していた診療所のたな卸資産や未収金は、親の所有財産や債権ですから、売却や贈与によって、子に承継することができます。
借入金の引き継ぎ債権者の同意を得れば引き継ぐことが可能です。この場合、借入金の利息は事業所得の必要経費に算入することができます。
院長への退職金勇退する院長に退職金は支給できませんが、承継後(院長交代後も)診療を続ける場合には、一定の要件のもと、子である院長から給与を受け取ることができます。
手続き
  1. 保険医療機関の指定申請書        → 各厚生局(都道府県)
  2. 診療所開設届 他            → 保健所(都道府県)
  3. 社会保険関係の新規適用届        → 年金事務所(都道府県)
  4. 個人事業開業届             → 税務署
  5. 所得税の青色申告承認申請書等      → 税務署
  6. 消費税の簡易課税選択届出書       → 税務署
  7. その他、診療報酬の医療機関指定申請書等 → 各厚生局 他(都道府県)

※旧診療所の廃止手続きも必要です。
限られた時間で繁雑な事務処理を行わなければなりません。
特に、相続による場合は、急なことであり混乱することがあります。


第三者への譲渡
売却価格によって譲渡損益が生じます。

クリニックの第三者への譲渡(M&A)

M&Aの形態には、(1)個人から個人、(2)個人から法人、(3)法人から個人、(4)法人から法人、などがあります。
また、基本的に、既存のクリニックは廃止し、新規のクリニックを開設することになります。
M&Aは、合併と異なり、総社員の同意、知事の認可、債権者保護といった複雑な手続きを経ずに医療法人を取得できるというメリットがあり、近年、買い手側のニーズが増えています。
また、売り手側も、後継者がいない場合には、投下資本の回収ができるうえ、これまで築いてきた地域医療と患者さんを引き継いでもらえるというメリットがあります。

医療法人のM&Aの手続きと留意点

売り手側買い手側
1.クリニックの売却意思のの決定1.クリニックの買収意思のの決定
2.アドバイザーの選定
2.売り案件探し
3.アドバイザーと契約
3.アドバイザーの選定
4.アドバイザーに資料提出
4.本交渉前の事前交渉
5.アドバイザーが買い手探し
5.譲渡の覚書の締結
6.本交渉前の事前交渉
6.買収査定及び価格の決定
7.譲渡の覚書の締結
7.譲渡の本契約の締結
8.譲渡の本契約の締結8.出資持分の譲渡、対価の受け渡し
9.出資持分の譲渡、対価の受け渡し9.医療法人の役員の変更手続き
(留意点)
  1. 情報隠ぺいはトラブルのもと
  2. 手取額を確認
  3. 情報漏えいに要注意
  4. 医師会への入会
  5. 医療事故の発生の動向
(留意点)
  1. 戦略の明確化
  2. 複数の評価方法で買収可か鵜を決定
  3. 資産・負債の調査漏れに注意
  4. 買取価格以外の支出の準備
  5. 買取後の人事

第三者承継のメリット

後継者

  1. すでに外来患者数がある程度多いクリニックを承継できれば、新規に開業する場合と比べて、いち早く患者を確保でき、経営が安定する。
  2. 承継の条件によっては、初期投資の低減と準備期間の短縮を図ることができる。

現経営者

  1. 患者・職員をそのまま承継してもらうことができる。
  2. 不動産等を賃貸又は売却することにより、引退後の将来設計が描きやすくなる。

その他

上記に加えて、地域住民にとっても、これまで現経営者がその地域で行ってきた医療が継続されるというのは、何にも代えがたい安心感につながるものと思われます。

しかし、その一方で、後継者・現経営者のそれぞれにとって、望んでいたような条件が実現できない可能性も否定できません。
承継の方法や条件をめぐって、両者間で合意が得られないケースも多く、また医療という非営利事業、許認可など制度面の特殊性もありますので、承継を検討する際には、客観的かつ専門的な第三者に仲介を依頼することが賢明と思われます。

医業継続にかかる相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置

平成26年度税制改正において、新たに医療法人の持分にかかる相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置が創設されました。これは、持分あり医療法人の出資者の死亡によって相続が発生する等により医業の継続に支障をきたすことのないよう、期限(最長3年間)を定めて持分なし医療法人への移行を進める医療法人について、移行期間中の相続税・贈与税にかかる納税を猶予し、また、移行後に猶予税額を免除するものです。

個人(相続人)が持分の定めのある医療法人の持分を相続または遺贈により取得した場合、その医療法人が相続税の申告期限において認定医療法人であるときは、担保の提供を条件に、移行計画の期間満了までその納税を猶予し、移行期間内に当該相続人が持分のすべてを放棄した場合には、猶予税額を免除する。

認定医療法人の出資者が持分の放棄をしたことにより他の出資者に贈与税が課される場合には、担保の提供を条件に、移行計画の満了までその納税を猶予し、移行期間内に当該他の出資者が持分のすべてを放棄した場合には、猶予税額を免除する。

医業継続にかかる特例措置

提供:株式会社TKC

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